2010/09/26

私の中の赤い花。

私の好きな花のひとつに彼岸花がある。
曼珠沙華、死人花、地獄花、幽霊花、剃刀花、狐花、捨子花。。。

根に毒があるし、家にもって帰ると火事になると嫌われ、
何とも可愛そうなお花。彼らには何の罪も無いのに。


小さな頃、私はいつも一人で遊んでいた。
近所に民家がなく、母は地雷源だったので、いつも一人。

おばあちゃんが生きてた頃は、小さな私の手を引いて、
近所を一緒に散歩してくれてた。
おばあちゃんは、きっと初孫の私を可愛がってくれていたように思う。

ただ、私が覚えているのは、
背の高いおばあちゃんを手をつなぎながら仰ぎ見た時の顔。
白髪まじりの髪をうしろで無造作にまとめ、地味な色合いの着物を着て、
痩せこけて頬骨が前に突き出した、皺が深く刻まれた日焼けした顔。
私が何度も仰ぎ見ても、目は合わなかった。いつもおばあちゃんは前を向いてたから。
そう、記憶している。

その散歩中に初めて見た、彼岸花を。
家のすぐ近くにある神社の境内に咲いていた。
境内といっても、参道ではなく裏手にある林の有刺鉄線の内側で、
有刺鉄線に沿ってある舗装されていない小径は、殆ど人が通らない淋しげな場所。
木々がうっそうとして昼間でも薄暗く、野鳩の声がひびき、空気までもが湿っていた。
まるで、悪い事ををした人達が、罰を受けに行く為にに通るような小径。

小さな私はその場所が怖くて、気持ち悪くて絶対一人では通らないと決めてたくらい。
通るときは必ず、繋いだおばあちゃんの手を力一杯握って下を向いてやりすごしてた。
次に顔をあげるのは、いつもの公園の入り口に着いた時。。。

おばあちゃんといつもと変わらず、その小径を歩いてた。
おばあちゃんの草履を履いた足がふいに止まった、まだ公園じゃないのに。
怖くて下を向いていた私に、おばあちゃんは指をさして、
「ほら、見てみ、狐火やで。」
何の事かと、おばあちゃんに隠れるように顔をあげて覗いてみると、、、、、

黒っぽいじめじめした景色の中に、真っ赤な狐火が点々と浮いてるように見えた。
・・・きれい。
あれだけ怖かった気持ちは一瞬にして無くなった。

固まってる私におばあちゃんは、珍しくすっとしゃがみ、私の目線まで降りて来て、
「あれはな、彼岸花っていうお花やで。きれいやろ。」

それから、おばあちゃんが居なくなって、一人でその小径を通るようになった。
毎年毎年、その時期になるとその場所へ行って彼岸花を眺めてた。
少し大きくなって、悪知恵も働くようになって、敷地内に入り込んで勝手に摘んで帰ったりした。
学校に持って行って初めて、毒がある事、良くない印象の花だと知った。

どれだけ言われても、私は大好きだった。
湿った黒っぽい景色の中に、浮かぶように燃えるように咲く真っ赤な花。

最近は、明るい景色の中で咲き誇る姿も受け入れるようになった。
同じ花とは思えない程、印象は全く違うけれどね。


今日、あの人から彼岸花が咲いてると電話をもらった。
随分前に、群生している場所があると知ったので、咲いたら教えてほしいと頼んでたの。
でもまあ、忘れられてしまうと思ってたんだけれどね。
きちんと、連絡をもらえた。

何だか、私の心の動きを見透かされているようなタイミングで
メールや電話がくる様な気がする。
離れる事を考える度、同じ場所に引き戻すように。
約束を破ってくれれば、少しは離れられるのにね。

私の切なさに歪んだ心は、あの風景の赤い火みたいだ。
湿った黒っぽい景色の中に浮かぶ、漂う様に燃える赤い火。
どこかに捨てに行こう。

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