2009/09/26

勘違いの残骸

何年も何年も前、陶芸工房でバイトをしていた時の事。

山の中腹にあったその工房の周りには、本当に何にも無かった。
冬には丹頂鶴(もしくはでっかい鳥)が、刈り取られてちょんちょん頭の田んぼを歩き回ってるのを何度も目撃しました。
日々、聞こえてくる音は、たまに通るトラックの音や鳥の鳴き声、
後は何の音か判別出来ない自然の音くらいの静かな静かな所でした。



あれは、雪が降る前の冬だったと思います。
すでに工房内には、大きな灯油ストーブがあり、その上にはお決まりのやかんがシュンシュンと高い音を出していました。
差し込む午後の日差しと、ほわっとした暖かさの中で、超単純作業を機械のようにこなし続けていました。
いつものように、ラジオがかかっていました。社長の好みのAMラジオ。(なぜ、おじさんはAMラジオばかり聞くんでしょうね)
毎日、午後のその時間には、ラジオドラマというのか本の朗読みたいなものが15分程ありました。
昼食後の眠気との戦いまっただ中でしたので、きちんと聞いてはいませんでしたが、小さな女の子のお話だったと思います。
小さな女の子がバスケットを持って森にラズベリーをとりに行くとか何とか・・・。童話のような雰囲気でした。

手強いミスター眠気と格闘していた私の耳に突然聞こえてきたラジオの内容は

・・・茂みに頭を突っ込んで、もぞもぞしていたシロクマが振り返ると、真っ白なはずのシロクマの口の周りだけ真っ赤でした。


えーーーっ、殺人?誰か喰われてんの?え、昼のこの時間にそんなグロイお話なんですかっ!次は小さな女の子なの?そんな。。

ミスター眠気なんて空の彼方に飛んで行く程驚いた私は、周りがどんな反応をするのか、どきどき(わくわく)しながら見渡しました。
だって、おじまさま達の絶大な信頼を受けているAMラジオが昼のまっただ中に人食いのお話ですよっ!

誰一人、反応しませんでした。みんな黙々と、単純作業に向かっています。

あれ、おかしいぞ?ラジオ聞いてないの?

・・・あらあら、○○ちゃんがバスケットに摘むはずだったラズベリーはすべてシロクマが平らげてしまいました。口の周りの真っ赤なラズベリージュースが証拠です。。

そうなんです、シロクマはラズベリーで赤くなってただけなんです。
殺人も人食いも欠片もありません。。。

勘違い。ただそれだけのことなんですが困った事に、壊れた私の脳みそが妄想レベルで生み出した殺人現場はフルカラーで描かれ、とてもクリアーに頭の中にこびり付いてしまいました。
そして、自然に囲まれた穏やかな工房という場所と、このひどい勘違いの落差が信じられないくらいにかけ離れているという事が、じわじわとショックだったのを覚えています。

緑の濃淡の中に大きな真っ白な熊。その口の周りには真っ赤に染まっている。そして、すぐ近くにはバスケットを抱えた小さな女の子が、振り返ったその熊を見てびっくりしてる。。

どうですか?ラズベリーの香りがしてきます?

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