2009/12/02

白昼夢

私が子供の頃、住んでいた近くには、埋め立て地があって、
トラックがよく通る大きな道路が走ってた。

工業地帯だったその辺りには、
独特の淋しい、何とも言えない雰囲気が充満してた。
何もかもが、小さな螺子までもが排気ガスに覆われているような
人間に作られたのに、人間に忘れ去られたような。

 近くといっても、自転車で15分くらい。
たまに、何もすることが無い時に遊びに行くくらいの場所だった。
子供には、あの非日常的な空気は馴染めないものだったから。
あの場所に行くと、本当に遠くに来たような心持たない気分になった。

ある日の放課後、友達が噂話を得意気に持って来た。
「あの大きな道路の側の、ドラム缶が沢山積んでいる空き地に、変な猫がいるらしい!」

私たちは、怪物探しの探検家気分で、自転車を飛ばして噂を確かめに一目散。
自転車をこいでいる間に、噂話は、どんどん頭の中で育っていった。
子供の頭は、無限大。のはずだったんだけど。。。

今でも、頭の中にくっきりと刻まれてる。
広い空き地には、錆付いて色褪せたドラム缶が何十缶と無造作に放置されてた。
もともとは、明るい黄色や青色、赤色だった事は子供の私にもすぐ分かった。
でも、雑草に同化するように、あの独特の雰囲気に馴染むように
 自分が明るい色のドラム缶だということを忘れているみたいだった。

じっと見ていると、錆だらけのそれらの隙間にあちらこちらに動くもの。
何匹もの猫。みんな、痩せこけて、気のせいかゆらゆら動いてる。
色は、みんな濃い灰色、日が落ちた空に分厚くかかる雨雲のような色。
そして、こちらを向いた、数匹の猫の片目を見た時、それから目が離せなくなった。。。

トルコ石。鮮やかな。

瞳ではなく、目ん玉全部。
白目部分は無く、すべてがトルコブルー、まるでトルコ石でできた義眼のようだった。

見えるものすべてが、くすんで沈んで温度の無い景色の中に、鮮やかに浮き出た猫の片目。
これこそ正に、白昼夢。

その後の事は記憶に無い。
どうやって家まで帰ったのか、一緒に行った友達はどうしたのか。

今は、その空き地は無くなってた。
あの猫達は、どうなってしまたんだろう。

本当にあった事なのか、思い出す度考えてしまうほど、
はっきりと覚えていて、全く現実味のない遠い記憶。

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